がん予防と検診
【2015年12月04日】
日本では、75歳以上の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっている現状です。このように不治の病のように死亡率の増加を続けるがんですが、国立がん研究センターが発表したデータによると、男性では半分以上(がん発生の58%、がん死亡の57%)、女性でも約3分の1(がん発生の28%、がん死亡の30%)が予防可能だったということです。
このデータからはがんは半数近くが予防できるということですね。
また、日本でのがん検診受診率は30~40%しかありません。半分以下です。この日本のがん検診受診率は、先進国の中で最低レベルです。これだけ死ぬ病気であるにもかかわらず、半数以上ががん検診を受けていないのです。
これら2つのデータからわかることは、おおよそ6~7割のがんは予防できるかもしれないということです。さらに正しい情報に基づいた予防に取り組めば、がんの9割は予防できるというデータもあります。
では、がん予防の正しい情報とはどういうものなのでしょうか。そもそも、がんは、遺伝子修復のエラーによってできる「できそこないの細胞」です。このがん細胞は健常人でも5000個前後、毎日できています。
つまり、どの部位にせよ、炎症やウイルス感染などで細胞が破壊されると、人間は破壊された細胞を修復するのですが、そのときに遺伝子が誤って修復されると、がん細胞ができるということです。がん細胞はこの「できそこない細胞」なのです。そして、炎症や感染が起これば起こるほど修復回数も増えて、その部位にがん細胞ができやすいということも言えます。
例えば、喫煙は肺がんや喉頭がんのリスクですが、これは吸う度に、喉や肺に煙の負担がかかるからです。そして煙の負担が最初で濃い、のどのがんのリスクが極端に上がるのです。喫煙者の肺がんが非喫煙者の約4倍であることに対し、喉頭(のどの)がんは約30倍以上にもなります。
ただし、このようにしてできた「できそこないの細胞」が、すべて固形がんになるわけではありません。ではなぜ、目に見える固形がんになるかというと、がん細胞が暴走し、がんを殺す免疫の働きが低下するためです。
この暴走と免疫低下が大きな要因です。近年、このがん細胞の暴走にブレーキをかける画期的な新薬も開発されました。これが免疫チェックポイント阻害剤と言われるものです。
がん化を防ぐためには、「できそこない細胞」ができてしまう機会を少なくし、免疫細胞の働きを低下させないことが大切です。
そのためには、体質(遺伝)と食事、あるいは生活習慣について正しい知識を持ち、それを日々生活の中で実践していく必要があります。ただし、どれだけ体質と食事と生活習慣をすべて改善しても、がん細胞が暴れ出すことがあります。その際は早期発見できる検診が重要となります。それでは順番に解説していきましょう。
まず体質や遺伝です。よくがん家系とか、がんは遺伝するとか言いますが、確実に遺伝するのは、ごくごく一部のレンチ症候群や家族性大腸ポリポーシス病のような、異常な遺伝子配列がどんどん子孫に遺伝していくがんだけです。ただ、遺伝リスクが高いがんはあります。それは、大腸がんと乳がん、そして前立腺がんの3つと言われています。
なぜならば、この3つのがんの原因が、がん抑制遺伝子の異常と言われており、それらがん抑制遺伝子の異常が遺伝していくからです。親戚などがこの3つのがんで亡くなっているときは要注意ですね。そういった方々は、とくにそのがんの検診に力をいれ、早期発見に努めた方がいいです。また最近は遺伝子レベルの検査で超早期発見することも可能です。これらががんの遺伝や体質に関することです。
一方、遺伝しない胃がんや肺がんばかりで亡くなる家系は遺伝ではなく、その家系の生活習慣や食事が原因です。たとえば、胃がんの家系であれば、味噌汁が濃いめであるとか、食卓に漬物は必ずあるといった塩分好きな家系であったり、家族全員が几帳面でクヨクヨ考えるといったストレスのかかりやすい家系だったりします。塩分過多は胃に負担がかかりやすいため、胃ガンの発症リスクが高まっています。
遺伝リスクの低いこれらのがんで亡くなることが多い場合は、その家系の生活・食事習慣を見直すことが大切です。
また、食事については焦げたものを食べるとがんになるとよく言われますが、これは特に気にする必要はありません。それより気にしてほしいのが前述の塩です。がんで問題になるのは塩分なのです。
国立がん研究センターの調査においても、食塩摂取量の高いグループの男性は、最も低いグループに比べると胃がんリスクが約2倍高くなっています。また、日本には塩分濃度の高い食品が数多くあります。味噌汁、漬物、たらこ、いくらや塩鮭、干物、塩辛などといったものがありますが、それぞれの食品別に胃がんリスクを比べた調査でも、ほとんどすべての食品で、摂取回数が増えるほど胃がんのリスクが高くなっています。
では、なぜ塩と胃がんは深い関係にあるのか。それは塩の刺激の強さにあります。例えば海水浴に行ったときに、海水が目に入ると痛い思いをします。あれだけの痛みが出るのは、塩が激しく細胞を傷つけるからです。
このような高刺激なものを、毎日胃の中に入れると胃を荒らし、最後はがんになるのです。特に日本人は食塩摂取量が多いので、がん予防には減塩を心がけるべきです。
また、誤解の多いのは、スポーツをして健康的な生活を送っているから、ほかの人よりがんになる可能性は低いと考えることです。これは全く逆で、激しい運動を習慣的に行っている人は、実はがんになりやすいのです。
激しすぎる過度なスポーツや運動は、NK(ナチュラル・キラー)T細胞の活性を低下させます。NK・T細胞とは、免疫細胞の一種で、体内をパトロールしながら、がん細胞やウイルスに感染した細胞といった異物を攻撃し除去してくれる、いわば体の恒常性を保つボディーガードの役割を果たしています。
しかし、激しい運動によってNK・T活性が低下することがわかっています。たとえば、2時間半のマラソンの後には、NK・T細胞活性が60%程度低下すると言われています。
ということでがん予防の観点からは、過度の運動を伴うスポーツはあまりお勧めしません。健康のために体を動かす程度であれば、普段よく歩く程度でいいと思います。また、ウォーキングのような軽い適度の運動は、NK・T細胞活性を高めるがん予防効果があります。
そのほかにがん予防としてお勧めするのは、禁煙、適度な飲酒、質のよい睡眠、笑って生活すること、ストレスをためないこと、体温を下げないこと、ヨーグルトや乳酸菌など発酵食品を摂ること、ショウガやカプサイシン、入浴などで冷えを予防することなどがNK・T細胞の活性を高め、結果、がんを予防することにつながります。
あとは検診ですが、よく聞かれるのはがん予防には一般検診だけでいいのか、それとも人間ドックなど特定のがんを見つけるがん検診をしたほうがいいのか、といった質問です。一般的な自治体や企業の検診は対策型検診といいます。また、人間ドックを任意型検診と言いますが、実は現状がん予防には対策型検診だけで十分なのです。
というのも死亡の大半を占める大腸がんや胃がん、肺がんは、対策型検診で早期発見できます。対策型検診は死亡率減少が目的なので、死亡数の多い胃がん、肺がん、大腸がんなどのがんがすでに選択されています。ですから、ある程度のがん予防は一般検診でカバーできます。最近の一般検診には乳がんや子宮がん検診がついているのもあります。
一方で、すい臓がんや肝臓がんなど、死亡数がある程度多いのに一般検診で選ばれていないがんは、いまだに正確に判断できる検査法が確立されていないことと、早期発見をしても生存期間の延長が難しいことが選ばれていない要因なのです。
つまり、人間ドックなどの任意型検診でしか受けられない肝がんや膵がんのがん検診は、早期発見しても、死亡率減少つながらないということになります。逆に対策型検診で対応している胃がん、肺がん、大腸がんなどは、早期発見・治療で治り、死亡率が減少しているという結果なのです。つまり任意型検診であるがん検診を受けても死亡率は減らせないということです。
また、対策型検診をしっかりと受けておけば、生活習慣病のみならず現時点でのがん予防もしっかりとできるということです。
がん治療については、私は「現時点でがんに対し、行い得る治療は全て行う」という方針ではあります。ただ、これには条件があって、今行っている抗がん剤治療などの副作用が強く、著しく免疫力や体力を損なっていると判断する場合は、その治療を中止する可能性も視野に入れる、ということです。
がん治療で大切なのは、がんを直接殺す前述のNK・T細胞を中心とした免疫力向上です。免疫力向上ががん治療の基礎であり、土台と言っても過言ではありません。
しかし、この免疫力や体力といったものを軽視し、拡大手術や過度の放射線治療、あるいは抗がん剤のやりすぎで、免疫力が損なわれる例を数多く見てきました。副作用の多い特に抗がん剤治療は止め時も肝心です。近年、免疫チェックポイント阻害剤といったがんに効率よくブレーキをかける治療も出てきました。この免疫のアクセルとブレーキをうまく使い、免疫力を向上させる免疫療法を行いながら、元気にがん治療を行うことが大切です。
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監修医師紹介
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湘南メディカルクリニック新宿院
院長 阿部 吉伸 医師 -
【備考】
日本外科学会永久認定医 日本胸部外科学会永久認定医
心臓血管外科専門医(2004~2009)
下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術実施医 日本癌治療学会会員
日本心臓血管外科学会国際会員
日本胸部外科学会正会員 日本脈管学会会員 日本静脈学会会員
日本血管外科学会会員 日本再生医療学会会員 医学博士
経歴 | |
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1990年 | 国立富山医科薬科大学医学部卒 富山医科薬科大学病院第一外科入局(胸部・心臓血管外科・一般消化器外科) |
1994年 | 国立富山医科薬科大学大学院卒・医学博士 胸部外科認定医取得(食道・肺・心臓外科) |
1992年~1994年 | パリ第12大学アンリーモンドール病院心臓外科留学 |
1997年 | 国立金沢病院心臓血管外科勤務 |
2004年 | パキスタン、トルコ、ミャンマーの日本大使館に外務省参事官兼医務官として8年間海外勤務。 |
2012年 | 新宿血管外科クリニック 院長 |
2015年 | 湘南メディカルクリニック新宿院 院長 株式会社シーオーメディカル顧問医就任 |
当院で受けることが出来る免疫チェックポイント阻害剤
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ニボルマブ(抗PD-1抗体)ニボルマブ(抗PD-1抗体)
ニボルマブ(抗PD-1抗体)ニボルマブ(抗PD-1抗体)とは?
がん免疫療法(NK・T細胞投与)がん免疫療法(NK・T細胞投与)と併用し免疫機能を高めるニボルマブ(抗PD-1抗体)ニボルマブ(抗PD-1抗体)の点滴治療
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イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)
イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)とは?
CTLによるがん(細胞)の破壊する働きを助ける免疫チェックポイント阻害剤
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2種類の免疫チェックポイント阻害剤の併用療法
免疫チェックポイント阻害剤併用療法とは?
ニボルマブ(抗PD-1抗体)ニボルマブ(抗PD-1抗体)+イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)併用がん免疫療法(NK・T細胞投与)がん免疫療法(NK・T細胞投与)でがんの治癒率が飛躍的に伸びる可能性があります。
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アクセル+ブレーキ療法®コラム
免疫療法のアクセル+ブレーキ療法®とは?
従来の各種免疫細胞の活性化(アクセル)と、がん細胞の反撃を抑える免疫チェックポイント阻害剤(ブレーキ)を併用した新しい治療

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